『自転車都市』広島ならではの駐輪場事情
太田川が形成した広大な三角州(デルタ)の上に発展した広島県広島市。 「坂が少なく平坦である」という地形的な特性から、広島は全国的に見ても自転車移動が非常に盛んな都市として知られています。通勤・通学はもちろん、日常の買い物やビジネスの移動手段としても自転車は市民の生活に深く根付いています。
しかし、この平坦で便利な地形は、駐輪場整備の観点からは一つの課題も生んでいます。 紙屋町・八丁堀・大手町といった都心部にはオフィスや商業施設が密集しており、地上のスペースは極めて限定的です。そのため、都市機能の利便性を損なわずに駐輪スペースを確保するには、「地下空間」や「ビルの敷地内(屋内)」をいかに有効活用するかが重要な鍵となります。
また、JRや広電(路面電車)などの公共交通機関と自転車を組み合わせた移動スタイルも定着しており、駅周辺や学校といった大量収容施設の整備も欠かせません。
今回は、広島の駐輪場の課題や解決策について、県内の実際の整備事例を交えながらポイントを解説します。
広島県の駐輪場改善事例
ここでは、オフィス街、教育機関、交通結節点という3つの異なる場所に関する駐輪場整備の事例をご紹介します。
事例① 都心オフィス街における地下活用とバリアフリー(広島市中区)
広島のビジネスと行政の中心地である中区においては、歩行者の安全確保と都市景観の維持のため、地上への駐輪を抑制し、地下や建物内へ誘導する動きが進んでいます。
【施設情報】
- 大手町地下自転車駐車場
- 施工台数: 駐輪ラック182台
- 平和大通り電気ビル(小網町)
- 施工設備: サイクルライン(自転車搬送コンベア) 1台

大手町や小網町周辺は、オフィスビルが建ち並ぶエリアです。地上の限られたスペースを有効利用するため、駐輪場を地下や屋内に設けるケースが増えています。 ここで重要になるのが「アクセスのしやすさ」です。地下や階上への移動を伴う場合、重い電動アシスト自転車などを手押しで運ぶのは利用者にとって大きな負担となります。 平和大通り電気ビル(小網町)の事例では、スロープに「サイクルライン(自転車搬送コンベア)」を設置することで、利用者が力を入れずに自転車を移動できるバリアフリー環境を整えています。こうした設備投資は、違法駐輪を減らし、指定駐輪場の利用率を高めるための有効な手段となります。
事例② 教育機関における大規模収容と生徒の安全性(広島市東区)
【施設情報】
- 瀬戸内高等学校
- 施工台数: 駐輪ラック238台

広島県内では自転車通学をする生徒が多く、特に高校などの教育機関では、数百台規模の学校駐輪場の確保が求められます。 瀬戸内高等学校の事例では、数年にわけて230台以上駐輪ラックの整備をおこないました。学校における駐輪場計画で最も重要なのは、「限られた敷地内での効率的な配置」と「生徒の安全性」です。 単に台数を確保するだけでなく、登下校のラッシュ時に生徒同士が接触しないよう動線を確保することや、整理整頓を習慣化しやすいラック配置を行うことが、校内の環境維持につながります。
事例③ 交通結節点における利便性向上(広島市佐伯区)
【施設情報】
- 施設名: 五日市駅南口自転車等駐車場
- 施工台数: 駐輪ラック49台

JR山陽本線と広電が接続する五日市駅は、多くの通勤・通学客が利用する交通結節点です。 自宅から駅まで自転車を利用し、そこから電車に乗り換える「サイクル・アンド・ライド」を支えるためには、駅からのアクセスが良く、短時間でスムーズに駐輪できる環境が不可欠です。 49台という規模ですが、駅南口の利用者の動線に合わせた配置を行うことで、公共交通機関への乗り換え利便性を高め、駅周辺の放置自転車防止にも寄与しています。
広島の駐輪場計画で、特に考慮したい3つのポイント
上記の事例を踏まえ、広島県内で駐輪場を新設・改修する際に考慮すべき3つのポイントを整理します。
デルタ都市の土地不足を補う「地下・屋内」活用
広島の都心部(紙屋町・八丁堀など)は平地であるものの、開発密度が高く、新たな平面駐輪場の用地確保は困難です。したがって、ビルの地下スペースや空きテナント、あるいは建物の隙間などのデッドスペースを活用する**「地下駐輪場」**や屋内駐輪場の需要は今後も高まります。土地の高度利用という観点からも、建物計画の初期段階から駐輪スペースを組み込むことが推奨されます。
高低差を克服する「搬送支援設備(コンベア)」
駐輪場を地下や2階以上に設置する場合、最大のネックとなるのが「移動の負担」です。特に近年普及している電動アシスト自転車は重量があるため、急なスロープは敬遠される傾向にあります。 事例で紹介したような**「サイクルライン」**などの搬送支援設備を導入することは、利用者の身体的負担を軽減し、「使いやすい駐輪場」として施設の価値を高めるために非常に有効です。
大量の通学自転車をさばく「動線設計」
学校や駅周辺の大規模駐輪場では、収容台数(スペック)と同じくらい「使い勝手(動線)」が重要です。朝の数十分間に利用が集中するため、入り口と出口を分ける、通路幅を十分に取る、自転車を出し入れしやすいラックを選定するといった工夫が必要です。スムーズな動線設計は、生徒や利用者のマナー向上や事故防止にも直結します。
おわりに
広島県は、その地形的特性から自転車利用が非常に活発なエリアです。だからこそ、単に「自転車を置く場所」を提供するだけでなく、利用者にとって快適で、かつ都市の景観にも配慮した質の高い駐輪環境が求められています。
限られたスペースを最大限に活かす配置計画や、利用者の負担を減らす設備の導入など、それぞれの施設の特性に合わせた駐輪場整備をご検討されてはいかがでしょうか。
